『Oh! 水の花道!』 第14話 ― 君と出逢ったバッタリ 殺し文句バッチリ よく決まったハッタリ 今すぐ恋に堕ちてくれ ―by Janne Da Arc イタチと飛段のラブゲーム(?)はいよいよクライマックスへと突入した。 キスとドンペリ、そしてもう2度と口説かないという誓約を賭けて 男と男の勝負が、今、始まるのだ。 そう、本人たちはいたって真面目。 負ける気なしの真剣勝負であるが、傍から見ると、やはりバカバカしい。 一体、男同士でなにをやってるのだろう。 ママ、サスケ、角都の半ば呆れた視線の中、 イタチの右手が銀の盆の上で止まった。 しなやかな腕の先で掌が開き、がっとピスタチオをつかみこむ。 果たして幾つのピスタチオがその掌の中に納まったのか… しかし幾つだろうと結果は同じである。 先ほど、カタクリ氏を相手に同様の賭けをしたばかりなので、 仕掛けを知っているサスケとママは、イタチの勝利を確信していた。 そう、飛段が偶数と言えば奇数に、奇数と言えば偶数に、 イタチは掌の中でピスタチオの殻をかぶせたりかぶせなかったり… 数を自在に調整するつもりである。 単純なトリックであるが、やり方次第では気づかれずに騙すことができる。 相手が先ほどの一般人と違って今度は忍の飛段ではあるが、 まぁ、この男の脳みそなら、トリックを見破ることはないだろう… 負けることはない。 イタチはにやりとほくそ笑んだ。 サスケとママも初対面であったが、早くも飛段の脳みその容量の少なさを 見抜いていた。 (ふん…ばかな男だ。 自分の同僚がホステスに化けてるのに気付かないことからしてどうかと思うが… 今度もアイツのトリックにまんまとひっかかるのだろう… ま、相手が本当はイタチで男なんだから、負けてしまう方がコイツにとっても 幸せなんだろう…。 エロうすらとんかちが!) (飛段さん、お気の毒だけれど、ドンぺり2本いただいちゃうわね。 それにしても、この『美麗』は掘り出し物だったわね。 今日一日でドンペリ4本! うははは。 笑いが止まらないわ〜) サスケとママは若干の憐れみと蔑みを込めて飛段を見守った。 「さぁ、偶数? 奇数?」 イタチが余裕の笑みを浮かべて飛段に問うた。 飛段はじっとイタチの掌を見つめた。 こうして真剣な顔をしているとなかなかの美丈夫である。 だが、やがて顔を崩してニカっと笑った。 「奇数! キスが懸ってるんだからな、ここはやっぱりキスの奇数! なぁんてな、ゲハハハ!」 はいはい…。 ご機嫌でおやじギャグを飛ばし豪快に笑う飛段にイタチはため息をついた。 しかしご機嫌でいられるのも今のうち…。 「奇数ですね? いいのですね? 本当に」 「ん? そう言って聞き返して惑わすなよ。 変えたくなるじゃねぇか。 だけど変わりなし! ここは奇数だぁ!」 きっぱり言い切る飛段にイタチは頷いた。 「わかりました…では、ひとつ…」 握った拳からピスタチオを一粒、ポトリと銀の盆に落した。 「ふたつ… みっつ… 」 続けて二つ目、三つ目を落とす。 そして4ッつ目を落とそうとしたその時。 「よっっ…あ、何をする?!」 4つ目のピスタチオが落とされる前に、飛段がイタチの手首を ぐいっと握り、その掌を強引に開かせた。 「…よっつ。 残念。 偶数でしたわね。 私の勝ちです」 開いた掌にはピスタチオが一粒。 イタチは勝ち誇り、飛段を見上げて艶やかに笑った。 その笑みを見て、飛段もまた笑顔を返した。 「いや、五つだ」 飛段はイタチの掌に載ったピスタチオを指で弾いた。 ピスタチオの上にかぶっていたカラがぽろりととれて 掌の上はピスタチオの粒が二つになった。 「ふふん。 うそつき・イカサマは泥棒の始まりだぜ? 感心しねぇな。 だけど、ま、女は嘘つくところが可愛いんだけどさ」 「や、でもこれは…」 「言い訳無用。 オレの勝ち」 飛段はにこっと笑うとイタチの手首をそのままぐいっと引きよせ イタチの細い体を自分の懐にかき抱いた。 そして一瞬の行動に驚いて目を見開くイタチに物言う暇を与えずに唇を重ねた。 「うっ…」 逃げようとするイタチを許さず、飛段は宣言通り情熱的なキスを 与えた。 (おぉーっ!//////) (まぁ♪) (…オレは知らんぞ。 後で文句言われてもオレは知らんからな。 すべては飛段が馬鹿なせいだ…!) 熱烈的なテキーラキッスはギャラリーにも感動(?)を与え 延々43秒、飛段はイタチを離さなかった。 「…っはぁ」 やっと解放され、イタチは放心状態。 未だ眼は大きく見開かれたまま…。 瞳孔全開である。 「くくっ……度数強すぎたか? オレも久々の美酒に酔わせてもらったな。 どうやら明日は、アンタ想って二日酔いになりそうだぜ」 飛段はそう言って、呆然としているイタチの頬をさらっと撫ぜると 今度は軽くキスをした。 「これは、オマケv」 そして、おもむろに立ち上がった。 「さ、角都、もう帰ろうぜぇ」 「え? 何だ? もう帰るのか? 勝ったのに?」 「あぁ、男は去り際が肝心だからな。 今日はもう超スーパーバリバリメロメロイチャイチャエロエロキスが もらえたからいいよ。 美麗ちゃん、またな」 飛段はイタチに向かって片手をあげ、ウィンクを飛ばすと、 そのままマントを翻しさっさとドアに向かった。 「あ、おい! 待てよ! あ、ママ、すまん! いくらだ?」 角都はそそくさと支払いを済ませると慌てて飛段を追って店を出て行った。 バタン…! ドアが閉まる音が『クラブ麗江』のせまい店内に響いた。 「………」 「………」 「………」 誰も口を開くものはいない。 みんな、飛段の毒気にあてられ言葉が出なかった。 「ふ…ふん…うすらとんかちが」 間をおいて、やっとサスケが一言呟いた。 13、14の青少年には刺激が強すぎたか。 サスケの頬は真っ赤でゆでダコのようであった。 他になにか言うセリフはあると思うが、眼前で繰り広げられた 熱烈なキスシーンは普段から無口な少年を、ますます言葉少なにし、 何か言わなくてはと思っても、言い慣れた『うすらとんかち』しか出てこないのであった。 しかしサスケの言葉で、うっとりと魂の抜けた顔したママも我に返った。 ハッとして、頭を軽く振ると、 「はぁ…ちょっと、すごかったわね… でもあの飛段って男、脳みそ小さいと思っていたけれど 美麗のトリックを見破るなんて…結構策士だったのね。 しかもキスが済んだらあっさりと帰るなんて… やるわね。 こういう押して引く攻撃に女って弱いのよ…。 えぇ、あれはなかなかの女ったらしだわ。 私がもうちょっと若くてあんな風に迫られたら あぶなかったかも… う〜ん…」 感心して唸った。 「まっ、ドンぺりは今回せしめられなかったけど、 相手が悪かったということで、美麗、次も頼む…あら? 美麗?」 明るく労いの言葉をかけて振り返り、ママはイタチを見て 言葉を切った。 イタチは真っ青な顔をして口元を押さえ蹲っていた。 「うっく〜…気持ち悪い…」 まさに悪酔いしたようであった…。 お気の毒。 (つづく)
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